孤独の先につながりを見つける旅:心の荒野を生き抜くための痕跡ネットワーク

一言サマリー

孤独を感じたときに同じような経験をした人たちの言葉を参考にしながら、やがて自分の体験も誰かの支えになっていく、そんなつながりの生まれ方について考えたエッセイです。

要点まとめ

  • 旅人=孤独を感じている人、要塞=多数派の世界、荒野=孤独な人が行き交う場所
  • 旅人になったときは、同じような経験をした人の言葉や体験談という痕跡を参考にする
  • そうした痕跡は現在・過去・別世界など、さまざまなタイプにものが存在する
  • 同じような旅人同士で、小さなつながりが生まれ集落となることがある
  • 余裕があるときに自分の孤独体験を素直な言葉として残すと、荒野の一角に痕跡が残る
  • 痕跡が多く残された世界は、変化に対して強く柔軟性を持つ

以前、私は「荒野の旅人」と「要塞の住人」というイメージを使ってエッセイを書いたことがあります。

また「旅人の野営スキル」についても書きました。

荒野の旅人というのは、自分が少数派に感じられ、孤独感にさいなまれたときの精神状態を例えたイメージです。

反対に、多数派でいるときには「要塞の住人」という言葉で表現しています。

旅人になると周囲とのつながりを感じられず、自分ひとりで身を守り生きていかないといけません。

そこで生き抜くには、要塞にいたときとは別の生活スキルが必要になってきます。

この状態は、よりサバイバルに近いと言えるでしょう。そこで以前は物語を使ったつながり方を、野営スキルとして紹介しました。

野営スキルは荒野を旅するためのエネルギーを確保する方法です。英気を養わないと、荒野をさすらうことはできません。

そして次に必要になるのが、実際に荒野をさすらうためのスキルだと思っています。

今回は実際に旅をするときのスキル、そして旅人によって生まれるネットワークについて考えてみたいと思います。

目次

痕跡をたどって旅をする

まず旅のスキルとして大切なのは、「他の旅人が残した痕跡をたどること」だと考えています。

荒野に放り出されると、目の前にはただただ茫漠とした景色が広がっています。

そんな右も左もわからない状態で、行き当たりばったりに旅をするのは危険が伴います。

でも目をこらしてみると、他の旅人の痕跡が目に入ることがあります。

見つけた痕跡に向かってみると、他の旅人が残した旅に役立つ道具や、次に目指すべき方向のメモなどが見つかったりします。

荒野に放り出されたときは、このような旅の仕方が必要になります。

イメージとして書いてみましたが、これは実際には同じような孤独を感じた人の経験を参考にするということです。

孤独を感じたとき、同じ経験をした人を探そうとする。これが、目をこらして周囲を見渡すということです。

そして古今東西、多くの人がさまざまな孤独を経験しています。そのため、たくさんの痕跡が荒野に残されています。

今、同じような経験をしている人の痕跡もあれば、過去の旅人の痕跡もあります。

たとえば仏教やキリスト教などの宗教や、哲学の偉人が残した言葉などは、時を超えて残された痕跡と言えるでしょう。

痕跡にたどり着くということは、このような情報を手に入れることだと考えています。

また痕跡は、時間だけでなく空間を超えて見つかることもあります。

イメージとしては、別世界の旅人による痕跡が見つかるという感じです。

まるで重ね合わせやホログラムのように、自分の世界とは別次元から残された痕跡に気づくことがあるのです。

病気や事故だったり、家庭や学校、仕事の人間関係に問題が起きたり、社会的につらい状況に陥った人が旅人になりやすいです。

そのため多くの痕跡は、弱い立場に置かれた旅人によって残されています。

ただ荒野の旅人は、それ以外の状況でも生まれることがあります。

たとえばプロフェッショナルな世界で一流になった人や起業して成功を収めた人、IQが高すぎて周囲となじめない人など、強すぎる属性も孤独を生むことがあります。

どれだけ人や物に囲まれ才能があったとしても、内面世界に孤独を感じていたら、荒野の旅人になってしまいます。

実は、そのような旅人が残した痕跡も役に立つことが多いのです。

一見、自分とは関係のない別世界での痕跡が旅の役に立つ。

それはまるで次元を超えて残された痕跡のように思えるのです。

荒野を旅するときには、旅人の痕跡を利用する。

これが旅するときに必要なスキルだと思っています。

このときに現在の旅人の痕跡だけでなく、過去の旅人や別世界の旅人、時空を超えて存在する痕跡も利用したほうが、荒野での生存率が上がるような気がしています。

痕跡に人が集まり集落が生まれる

そして旅人が増えてくると、荒野の世界にも集落が形成されることがあります。

集落とは痕跡に人が集まって形成されたものです。

集落は要塞ほど堅牢ではないものの、自給自足が成り立っています。

これは小規模ではあるけれど旅人同士でつながりを感じ、孤独感が薄れることをイメージしています。

痕跡は前述したように現在、過去、別世界とさまざまな人が残します。

だから集落にも現在、過去、別世界とさまざまなものが存在すると考えています。

現在の集落は、同じような孤独を感じている人同士で、つながりが生まれた状態です。

過去の集落は、物語や思想など、過去に孤独を感じた人が残したものを通じてつながりが生まれた場合でしょう。

そして別世界の集落とは、属性の違う人たちの孤独につながりが生まれた場合だと思っています。

集落は痕跡よりも荒野で目につきやすく、集落の明かりが旅の目印になったりします。

また要塞よりも簡単に中へ入れますし、そこからまた荒野に旅立つことも容易です。

そのため集落は、一時的に身を寄せる交易拠点として機能するものだと考えています。

巨大な要塞と茫漠とした荒野という世界よりも、荒野のところどころに小さな集落が点在する世界のほうが、旅人の生存率は高いのではないでしょうか。

意識的に痕跡を残す

だからこそ集落の源となる痕跡は多いほうが良いと思っています。

そこで最後に、自分自身で痕跡を残すことについて考えてみます。

荒野に痕跡を残すということは、自分自身の孤独な思いをフラットに残すことなのではないでしょうか。

誰もが考えることや、多くの人に向けた言葉は要塞の中に思いを残すということです。

それ自体にも価値は生まれますが、要塞の中だけで機能して荒野には痕跡を残さない。

また荒野の痕跡の多くは、要塞の周囲に残されていると考えています。

なぜなら孤独なときは、どうしても他人に気づいてもらったり、気にかけてもらったりしたくなるからです。

これは要塞の周囲で生活して痕跡を残すようなものだと思っています。

要塞の周囲で痕跡を残せば、要塞の中にいる人に気づいてもらえる可能性が上がります。

ときには要塞から出てきて手助けしてくれる人も現れるかもしれません。

そのため痕跡を要塞の周囲に残すことは理にかなっています。

でも要塞の中の人が手助けしてくれたとしても、彼らはいずれ要塞の中に戻ってしまい効果は一時的です。

また要塞周囲に痕跡が限られてしまうと交易拠点にはなりづらいです。

そのため広い荒野での旅が続けにくくなるというデメリットがあると考えています。

大切なのは、今まで誰もいなかったところに痕跡が残ることだと思っています。

そのためには、ただただ自分という孤独な側面に向き合い、素直に思いを残す。

そうすることで要塞から離れた茫漠とした荒野の世界の片隅に痕跡が残る。

荒野のどこに痕跡が残るかは、その人の環境や向き合い方によるでしょう。

でも向き合い方が深ければ深いほど、なにもない荒野の一角に痕跡が残ると思うんです。

そして今までなかった場所に痕跡が残れば、新たな旅人の道しるべになるんじゃないでしょうか。

いつなんどき荒野に放り出され、旅人になるかは誰もわかりません。

荒野の旅は孤独です。

でも、そんなときに誰かがそこにいたという痕跡だけでも残っていれば、助けになると思うんです。

ただ誰もいないところに痕跡を残すのは、余裕と不満、両方を持っている人じゃないとできないとも思っています。

なぜなら意識的に痕跡を残そうとする余裕と、荒野に旅立とうとする不満という動機が必要だからです。

まったく余裕がない人は、なんの準備もないまま荒野に放り出されるようなものです。

だからこそ前述した他の人の痕跡を利用して旅をせざるを得ないし、要塞の周囲から離れるのも難しくなってしまいます。

また不満がない人は、要塞内で特権を得ているような存在です。

そこでのつながりに縛られやすく、また要塞暮らしの快適さから、荒野に旅立つメリットを感じづらい。

でも、要塞の中で余裕や快適さは感じつつも不満がある。

そんな人は荒野に自分から旅立てるのではないでしょうか。

なにか要塞内の暮らしで違和感を覚えているような人こそが、要塞の中で得た余裕を使って意識的に旅をして痕跡を残せる人だと思っています。

痕跡の多い世界

もちろん要塞の暮らしは快適さがありますし、違和感があってもそこに留まるほうが安定していて、生物としては自然な行為でしょう。

ただ個人的には、荒野の痕跡は多ければ多いほど良いと思っています。

痕跡によって集落が生まれる可能性があり、それは流動性にもつながるからです。

荒野には目を向けず要塞から一歩も動かない世界は、堅牢ですが柔軟性に乏しいものです。

そして荒野で生き延びるスキルも育たないから、なにかあったときに全滅するリスクがあります。

また外部情報が遮断されるため、他の要塞の内部が理解できません。それは分断や敵対のリスクが上がることにもつながるでしょう。

痕跡や集落を利用しながら荒野を旅して、ときには別の要塞にたどり着ける。

旅人が増えて交易が行われている世界のほうが、なにかあったときに全滅を避けられる可能性が高いのではないでしょうか。

自分の中にある孤独を元に、要塞の外に一歩踏み出していく。

そうすることで荒野のいたるところに痕跡が残っていく。

これこそが荒野の痕跡ネットワークを作る一歩だと思っています。

そんな小さな痕跡が、やがて誰かの道しるべになり、新しい集落を生み出していく。

それによっていろんな要塞が集落を介して交流していく。

そんな世界に私は生きていきたいなと思っています。

だからこそ自分の旅の痕跡として、エッセイや小説を残していこうと考えています。

よろしければcodocで投げ銭していただけると、創作時間の捻出にもつながり励みになります。

また感想や共感したポイントがあればXでぜひ教えてください。下のXボタンから共有ポストできます。

Xでの感想もお待ちしています
目次