周りに合わせる楽さ、自分で決める強さ:相対と絶対、2つの座標で世界を考える

一言サマリー

相対座標と絶対座標という、ふたつの行動基準の間でバランスを取りながら生きることの大切さについて考えたエッセイ

要点まとめ

  • 相対座標とは他者との比較で自分の位置を決める考え方
  • 絶対座標とは自分自身の基準で位置や行動を決める考え方
  • 相対座標のメリット:行動指針が明確で楽、コストが少ない
  • 相対座標のデメリット:自分で決められず周囲に振り回される
  • 絶対座標のメリット:自己決定権があり幸福度や健康につながりやすい
  • 絶対座標のデメリット:すべて自分で決める負担、世間とのズレが生じる可能性
  • どちらか一方だけに偏るのではなく両方を理解して使い分けることが大切

今日は「相対座標」と「絶対座標」という考え方から、自分自身がどう行動しているのかということについて考えてみたいと思います。

私たちは日々の行動を決めるとき「周囲と比べて」判断するときもあれば、「自分自身の基準で」決めるときがあると思います。

この、それぞれの行動の仕方を「相対座標」と「絶対座標」と表現してみたいと思います。

相対座標とは、周りを基準にして自分の立ち位置や行動を決めること。

一方、絶対座標とは、自分自身で位置や行動を決めていくこと。

このように定義して、それぞれの座標について考えてみたいと思います。

目次

座標とは

まずは座標について説明します。座標とは世間で今、自分がいる位置のことです。

軸にはいろいろな種類がありますが、ここではわかりやすくするために「社会的地位」と「ステータス」という軸を考えてみます。

この軸で右上(第一象限)の方向に進むほど、世間的な評価が高くなるとします。

さて、自分の位置はどこにあるでしょう。

そのときに相対座標か絶対座標かという考えを使います。まずは相対座標について考えてみましょう。

相対座標について

相対座標というのは、他者との比較で自分の位置が決まるという考え方です。

たとえば「自分はAさんより社会的地位が高い」「Bさんよりステータスが低い」というような感じです。

個人同士の比較で相対座標が決まることもあれば、集団同士で比較する場合もあります。

自分がいる集団はCという集団よりも平均年収が高く、全体的にステータスが高い座標に分布しているというイメージです。

たとえば先進国と発展途上国、国同士を比較した表現も相対座標によって決められたものです。

他者の座標と比較して自分がどこに位置しているのかが決まる。これが相対座標という考え方です。

そのため周囲の座標が動くことによって自分の座標は変わっていきます。

たとえば世論が変わったことで、相対的に自分の評価が変わることがあります。

過去にはタバコに渋さやかっこよさというステータスがありました。しかし世論が変わり今は健康を害するものとして扱われがちです。

そのため喫煙者には、かつてほどのステータスはありません。

タバコ自体は過去も今もなにも変わっていません。でも、そのイメージが変わったことによって喫煙者のステータスが相対的に変わっていきました。

このように相対座標による位置の決定は、そのときそのときによって変わっていきます。

絶対座標について

絶対座標は、自分自身で自分の位置を決めます。

「自分はここにいる」「自分はあそこの座標へ行きたい」と、自分だけで決めて動いていきます。

絶対座標の場合は他者との位置関係で座標が決まりません。そのため座標平面上には自分自身しかいません。

だから座標を移動するには自分自身で動かないといけません。

次に自分が目指したい座標はどこになるのか。そこに到達するには、どうすればよいのか。

ひとつずつ楔を打ち込み、足場としながら目的の座標へと移動していくイメージです。

このように書くと、相対座標は他者によって位置が決まる付和雷同のような存在、絶対座標は自分で位置を決める芯を持った人間のように思えるかもしれません。

しかし、それぞれにメリット・デメリットがあります。次はそのことについて考えてみたいと思います。

相対座標のメリット・デメリット

メリット

相対座標のメリットは非常に楽ということです。自分自身で位置を決める必要がありません。どの方向に進めばいいかも自動的に決まっていきます。

たとえば大学受験で有名大学を目指している場合、そのときの評価や行動の多くが相対的に決まります。

この場合は模試などのテストの点数や学校の成績が軸になります。

そして試験などで好成績を取る。それが第一象限に位置し、みながそこを目指していきます。

順位によって評価が決まるため、試験で点数が取れるように過去問対策をするなど取るべき行動も明白です。

このような点を取るためだけの勉強は、本質的ではないと批判されることがあります。

私自身も、このような勉強は嫌いでした。試験だけで点が取れても、そのとき限りで実際の役に立つのだろうかという思いがあったからです。

この思い自体は今もあります。しかし大人になるにつれて、指針があるというメリットは無視できないなという考えも持つようになりました。

これは絶対座標のデメリットにもつながりますが、自分で課題を決めて行動することには労力がかかり、ときには間違えるからです。

たとえば仕事でも、無の状態で放り出されると困ってしまいます。先輩や上司からの手ほどきやマニュアルがあるからこそ安心して行動ができます。

取るべき行動が示されているため取り組みやすい。これは相対座標のメリットです。

このような観点で考えると、実は医療も相対座標によるものです。

不健康な状態から健康という第一象限に向かうには、どうすればいいか。そこにはさまざまな研究結果をベースにしたガイドラインが整備されています。

そのガイドラインに沿った生活習慣の指導や治療が健康につながります。

もちろんガイドラインに合わない事例もあるため専門職として調整する必要はあります。

しかしガイドラインが整備されていることで、多くの医療者は負担が少なく患者に指針を示すことができます。

このように相対座標だと「どの座標に向かうべきか」「どうやって向かうのか」といった決定のためのコストが少なくなります。このメリットは無視できないものです。

デメリット

デメリットとしては座標を自分で決められず周囲に振り回されるということです。

座標の位置、目指すべき方向や行動は外部要因によって決定します。

たとえば自分がどれだけ楽しくて没頭できるような勉強でも、大学受験に関係のない科目であれば相対座標においては無駄な勉強とされてしまいます。

医療においても行動に制限がかかります。

たとえばもし糖尿病になってしまったら、食事を好き勝手に取ることはできません。なぜなら健康という第一象限に向かうには、食事制限をするという指針が示されているからです。

もし受験に関係のない勉強に没頭したり、好きなものを食べたりしたら罪悪感を覚えるでしょう。それは相対座標によって他者が存在しているからです。

絶対座標のメリット・デメリット

次に絶対座標のメリット・デメリットについて考えてみましょう。

メリット

メリットは他者に振り回されず自分で行動ができるということです。座標平面上に他者は存在しません。

自分自身で軸や座標の位置を決めます。そして自分にとって進みたい目的の座標を決めたら、そこにどうすれば到達するかを考えて行動できます。この自己決定をできることがメリットです。

人は選択を人に委ねたいと思う一方で、自分で選択できないことに不満を覚える生き物です。

精神的ストレスも、自己決定権があるかどうかで大きく変わります。

たとえば高齢者施設において、入居者に自己決定権があるかどうかで健康状態や幸福度が変わるという研究があります。

この論文では、2つの群を比較しています。

1つは自己決定権がある群で、自室での植物の世話を自分で行うことを許可したり、2日間開かれる映画鑑賞デーの日程を自由に選べたりします。

もう1つは自己決定権がない群で、プレゼントされた植物の世話は職員が行い、映画鑑賞の日程も職員が決定します。

すると自己決定権がある群では、アンケートによる幸福度や職員の目から見た健康度が高いという結果が得られました。

絶対座標で行動するということは自己決定権があり、健康や幸福度につながりやすいと考えられます。

デメリット

絶対座標のデメリットとしては、コストがかかるということです。

誰も自分の今いる位置も目指すべき座標も、そこにどう到達すればいいかも教えてくれません。すべて自分自身で決める必要があります。

すべての意思決定を自分自身で決める必要があるので、相対座標に比べて圧倒的に手間暇がかかります。

また意固地になったり世間とずれたりするというデメリットもあります。

自分自身で決めながら行動すると、他者に影響されるのが煩わしくなる場合があります。

それは人のアドバイスに耳を傾けなくなるということです。

たとえば前述した相対座標による医療を受け入れず、自分自身で効果があると信じた治療を受けることがあります。

いわゆる民間療法や代替療法と呼ばれる治療です。以前、別のエッセイで書いたようにこれらの治療は癒やしを求めて選ばざるをえない人もいます。

一方で絶対座標で生きる人が、積極的に選ぶというパターンもあります。

アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは代替療法を選んだ有名人のひとりです。標準治療を選択すれば、ここまで早期に亡くならなかったとも言われています。

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スティーブ・ジョブズはすい臓がんが見つかったときに代替療法をあえて選択しました。上の記事から、その部分を引用したいと思います。

このがんは、手術で除去するしか医学的に認められた対策がないというのに、ジョブズは手術を拒否してしまったのです。

そこには若い頃からの東洋思想などの影響で、体を切り刻まれたくないという気持ちと、西洋医学への拒否感があったのかもしれません。

「権威を信じない」「自分一人を信じる」という彼の信念がそうさせたのでしょう。

ジョブズは、新鮮なニンジンと果物のジュースを大量にとる絶対菜食主義を貫きました。

それにはりやハーブ薬なども併用して実践し、ほかにもインターネットで見つけた療法や心霊治療の専門家など他人からすすめられた療法も試しました。

これらの療法の実践は、すい臓がんと診断されてから9カ月間続きました。

その結果、すい臓がんは広がってしまいました。最終的にガイドラインに示されている手術を受け入れたときには、すでに肝臓に転移している状態でした。

これは軸がほかと違っていたとも言えます。医療がxy軸上で健康を定義していたにもかかわらず、自分だけはxz軸の世界で生きていた。

統計学的な医療という軸ではなく、代替療法という軸を選び、その方向で第一象限へと進んでいった。

その結果、むしろ健康からは離れていってしまったという状態です。

スティーブ・ジョブズは自分のこだわりを追求し続けてiPhoneなど世界を変える製品を世に送り出しました。

一方で標準治療を受け入れず早期に亡くなってしまいました。

これは絶対座標によるメリットとデメリットの両方を体現しているように見えます。

相対座標と絶対座標を兼ね備える

世間的には絶対座標で行動する人が一目置かれやすいです。

それは相対座標で行動する人が多いからでしょう。コストがかからないことを好むのは生物にとって自然です。

自然であるということは、多くの人がそちらに向かいやすいということです。

一方、絶対座標はコストがかかり自然とは言い難い行為です。

だからこそ、そのような座標で行動する人は数が少なく一目置かれやすいのでしょう。

ただ私自身は相対座標、絶対座標、どちらが良いという風には考えていません。

なぜなら、どちらにもメリット・デメリットがあるからです。

むしろ、どちらかの座標に安住して棲み分けがされてしまうことの方が問題だと思っています。

相対座標の人たちが、絶対座標の人たちを見て「住んでいる世界が違うよね」と言ったり、絶対座標の人たちが相対座標の人を見て「なぜ自分で行動しないんだ」と考えたりする世界の方が問題ではないでしょうか。

大切なのは、その両方の世界をつなぐ人。つまり相対座標と絶対座標の両方の座標で動ける存在なのではないかと思います。

相対座標で動くこともあれば、絶対座標で動くこともできる。

両方を使い分けられる人は、かなり貴重な存在なのではないでしょうか。

人の目を気にしつつ、人の目を気にしないで行動できる。そんな矛盾した行動ができるからです。

私は二項対立的な考えがあるときに、その両方を兼ね備えようとする行為が、もっとも大変だと考えています。

それは直線上の両端に対立するものを置き、その中央が高くなるような山を形成するイメージです。どちらかの端にいて、その世界で安住している方が楽になります。

一方で中央に存在するには坂を登る必要があります。

もし登るのをやめればすぐに元の場所に転げ落ちてしまいます。

これは自分で考えて行動しようと、相対座標から絶対座標へ向かったけど、大変だから諦めてしまったというパターンです。

また頂点を越えた場合、今度は逆方向に走らないと反対側の端へと一気に進んでしまいます。

これは相対座標から絶対座標へと移って、その世界を盲信するといったパターンです。

相対座標で行動していた人が、絶対座標に憧れて努力する。

その結果、山頂を乗り越えることができたけどブレーキをかけられず反対側に転がり落ちていくというイメージです。

努力して相対座標から絶対座標の住人になった人の中には、相対座標の人を馬鹿にすることがあります。

絶対座標で行動しないのは努力が足りないとか、相対座標の人はなにも考えていないと言った具合です。

もともと絶対座標方向へと走っていたからこそ、より端の方へと進み相対座標の住人と距離ができます。

そしてもっとも大変で難しいのが、中央の山頂に居続ける状態です。

これは、どっちつかずというわけではなく、両方のメリット・デメリットを理解して使い分けられる状態です。

相対と絶対、どちらの座標も取り入れたときに、より豊かな視点を持てるのではないでしょうか。

山頂に登るのは大変だけど、登頂すると視界が広がり、いろいろなものが見えてくる。それと似ていると思います。

ときには他者の示す道を頼り、ときには獣道を進み自分だけの地図を描く——そんな柔軟さが、これからの時代に大切だと感じています。

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