0003 自分の物語を綴る

 今回は癒やしに必要なもののひとつとして、自分の物語を綴ることが大事という考えを書きたい。

 これはどんな現実でも生きていきたいと思うときに必要なものだと考えている。

 癒やしを求めるとき、それはつらい状況や不安な気持ちを自分自身では受け止めきれない状況だ。そのときに見える世界は灰色で、心象風景として自分自身は世界にたったひとりと感じてしまうことすらある。

 だからこそ誰かにその気持ちを受け止めてもらいたくなる。誰かいてほしいと感じる。そして、そのためにトラブルに巻き込まれてしまうリスクがある(前回記事参照)。

 なぜなら寄り添ってもらいたいという気持ちを利用する人が出てきてしまうからだ。癒やしを求めたときにそのような人と出会うか、本当の意味で寄り添ってくれる人に出会えるかは運でしかない。

 癒やしを他者に求め続けることは、気持ちを利用する人に出会いやすくなることを意味する。

 これから話す自分の物語を綴るということは、このようなリスクを減らせると思っている。

 まずは自分の物語を綴るということを、「自分の物語」、「綴る」とわけて考えていきたい。

 自分の物語について

 これは自分がどのように世界を見ているかということだ。

 自分の物語は普段、無意識に作られていく。生きていけば、さまざまな経験をする。そのうちに物事はこういうものだ、という判断が積み重なる。

 この積み重ねによって、世界をどのように見ているかという自分の物語が作られる。

 物語の中には常識やルールのように、大多数の人が共有するものもある。例えば人のものを盗ったらいけない、という考え方も実は物語だ。子どもの頃からのしつけや教育によって多くの人が獲得している。

 中にはこの物語を持っていない人もいる。例えば子どもはまだ経験がなく、この物語を持っていない。

 そのため、つい友達のおもちゃを盗ってしまう。そこで怒られることで、人のものを盗ってはいけないということが自分の物語として刻み込まれる。

 人それぞれの物語

 物語によっては人それぞれのこともある。例えば家族に対する物語だ。

 幸せな家庭で育っていれば家族に対してポジティブな物語が生まれる。一方、愛情を注いでくれなかった親の元で育ったのであればネガティブな物語が生まれる。

 このような物語は無意識に作られていく。さながら自分の人生という本に対して、ペンが勝手に動き物語を作り上げていくようなものだ。

 物語=客観+主観

 そして物語には客観的なものと主観的なものの両方が含まれている。

 例えば親が自分のことを大切にしてくれなかったという物語を持つ人でも、それぞれ内容は異なる。

 ある人は、経済的には恵まれているが忙しい親のもとひとりぼっちで過ごすことが多かった。そのために大切にしてもらえなかったと思う。

 また別の人は、親は近くにいてくれた。しかし経済的に恵まれず進路を諦めたことで、大切にしてもらえなかったと思うかもしれない。

 この場合はそれぞれ、ひとりぼっちで過ごした、経済的に恵まれなかったという客観的な事実から、家族に対するネガティブな物語が主観として生まれる。

 ふたりとも同じような物語を持っているが、よく見ると客観的な事実の部分では異なる。

 このように自分の物語は人それぞれが独自に持っているものである。

 そこにはポジティブ・ネガティブ両方の物語があり、それが自分自身を形作っている。

 綴るということ、綴らないリスク

 自分の物語を「綴る」というのは、無意識に物語を作り上げるのではなく、自分自身の手で物語を書くということだ。

 なにかつらいことが自分の身に起きれば心が傷つき、ネガティブな物語が生まれる。

 そのときネガティブな物語を勝手に生まれるままにすると、どんどんと書き足され広がっていく。

 そうなると当然、そんな物語は読みたくなくなる。

 トラブルに巻き込まれるのは、この物語を利用する人が現れたときだと考えている。

 前回の記事でも多額の売掛を負わせたホストにはまった女性は、ホストが『おまえは悪くない』と言ってくれることで居場所になり、ある意味洗脳されていたと言っている。

 この女性は自分が悪いと責めてしまう物語を持っている。そんな中、ホストがそんなことはないと本人に代わって肯定する物語を書いてくれる。だからこそ女性は、その物語に夢中になりホストにハマってしまったと考えられる。

 このようなトラブルに巻き込まれるリスクを下げるには、自分の手で物語を綴る必要があると考える。

 人はネガティブな物語を作りやすい

 基本的に物語は自動で作られ、生まれた物語はネガティブな傾向にある。まず、そのことに気づくのが自分自身で物語を綴るために大切だと思う。

 人間はネガティブさを持つことで生き残り進化してきた。

 例えばあなたは今サバンナにいるとする。そして向こうにある草むらが動いたときを想像してみてほしい。

 それを風によるものと考えるだろうか。それとも向こうに自分を捕食する肉食獣がいると考えるだろうか。

 このときに肉食獣がいるかもとネガティブに考えることが生存に有利につながる。

 実際は風のせいだったとしても、万が一にも肉食獣がいると食べられてしまい生き残れないからだ。

 これも草むらが動くという客観的な事実と、草むらの向こうには肉食獣がいるという主観的な考えによって自動的に作られた物語である。

 そしてこのような物語は考えて生まれるものではなく、自動的に生まれる物語だ。

 ご先祖様も考えるよりも先に体が動き、その場から逃げ出していただろう。もしかしたらその草むらには二度と近寄らないかもしれない。

 物語をネガティブな傾向で自動的に作るというのは、人間が進化の過程で手に入れた生存戦略の名残りなのだろう。

 その生存戦略が自分を苦しめる

 だからこそ誰だって嫌な経験をすれば世界が灰色になりやすい。接客していて嫌な客が来たら、その人の性格から見た目まですべてが嫌なやつに見えてくる。

 この客が普段は優しい人で、たまたま機嫌が悪かっただけと考えることは難しい。

 自動でつくる物語では、そんな細やかな気づかいはしてくれない。ネガティブな物語を自動で作り上げる。

 そして、そのような判断は決して問題があるわけではない。たまたま出会った人に嫌な態度を取られる。それが、その人のすべてと思い性格が悪いやつと判断する。それでも、あまり今後の人生に影響しない。

 草むらに肉食獣がいるとネガティブに判断して、その場を離れるのと同じだ。

 実際に肉食獣がいたかは関係ないし、嫌な客が実際にどんな人かは関係ない。

 しかし、このような自動で作られる物語に任せっきりだと、自分の物語が自分を苦しめ始めたときに困ってしまう。

 例えば家族からつらい仕打ちを受けたら、同じ様にネガティブな物語が生まれる。しかも一回しか会わない嫌な客と違って家族は常に近くにいる。そこから生まれる物語を自動筆記に任せると、つらさがどんどん大きくなってしまう。

 あなたのつらい感情をインクとして、さらさらとネガティブな物語が勝手に書かれていく。

 そして家族と顔を合わせるたびに物語が増えていくと、ネガティブな物語が集まった分厚い本が生まれる。すると、そこからポジティブな物語を付け加えるのが難しくなる。ネガティブな本にポジティブな物語を綴ろうとしても違和感を覚えてしまうからだ。

 だから整合性を取るために自分自身のことや世界に対する見方など、多くの物語がネガティブになってしまう。

 仮に人から褒められるなどのポジティブなことがあっても、そのままの状態では書き加えられない。そんなわけない、たまたま運が良かったと自分の物語に合う表現に勝手に書き換えてしまう。

 だからこそ、全肯定して無理やり物語を上書きしてくれる人に依存してトラブルに巻き込まれてしまう。

 口で言うのは簡単だが

 自動筆記だとネガティブな物語が作られやすい。このことを知ったうえで、自分の手でペンを握り、自分自身の手で物語を綴ることが必要になる。

 ただそれは簡単なことではない。ペンはどこにあるのか、自分で物語を綴るとはどういうことかを知る必要がある。

 もしかしたら自分は椅子に縛り付けられて指一本すら動かせないかもしれない。無理やり眼を開かされ、自動筆記される物語をただ読むことしかできないくらい絶望的な状況かもしれない。

 それでも拘束を解き、ときには眼を閉じ、ペンを見つけて自分で綴る必要がある。

 そしてペンを握ったとしても、都合のいい物語はかけない。嫌なことがあっても、そんなことはないと否定することはできない。ネガティブな感情という黒インク自体は変えられないからだ。

 でも、その表現は自分なりに考えることはできる。ゆっくりと自分で考えて綴れば、ネガティブな物語も受け入れやすくなる。

 ただこれにも労力がかかる。今までは自動で書いてもらっていたものを自分で綴る必要があるからだ。もしトラウマ級のネガティブな物語があるのなら、それを自分なりに綴るのは骨が折れる。いきなり大長編の物語を書くようなものだからだ。場合によっては専門家の力もかりて、人生をかけて取り組むテーマかも知れない。

 だから身近なことから始めるのが良いと思っている。私自身も、自分の物語を綴ることは大事だと考えていて、取り組み続けようと意識している。

 その中で自分にとって良かったやり方を次回紹介したいと思う。それは自分のベストな睡眠を取るにはどうすればいいかという観点から、自分の物語を綴るということだ。

よろしければ応援していただけると、創作活動時間の捻出にもつながり励みになります。

感想もお待ちしています
目次