0002 癒やしに注力すべき人がもっと必要な理由
今回は癒やしに注力すべき人がもっと必要になる理由について考える。治しと癒やしの違いについては前回の記事を参照してほしい。
心が傷つき癒やしを求めた人は経済的に負担がかかりやすく、またトラブルにも巻き込まれる可能性が高い。そのため、もっと癒やしに注力する人が必要だと考える。
例として補完代替医療とホストの売掛問題について述べたい。
補完代替医療を通して考える癒やしとは
医療の世界では治しが複雑化する中で、どうしても癒やしに割ける時間が少なくなっている。
そのため病気になった人がつらい気持ちを抱えたときに、医療者だけでは受け止めきれないことが増えている。
すると患者は癒やしを自分自身で見つけて、そのつらい気持ちや不安な気持ちを静める必要がある。
ただでさえ癒やしが必要になるほど重い病気を抱えている状況だ。そんな余裕がない中で癒やしを求めたときには、わらにもすがる思いになりやすい。
そのときにつかんだものが患者にとって負担が少ないものなら問題ない。
しかし、中には経済的負担などが大きい癒やしも存在する。そのひとつが補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine:CAM)だと考えている。
補完代替医療とは、いわゆる民間療法と呼ばれるものだ。例えばサプリメントや自由診療のクリニックで使われる薬剤などが挙げられる。
これらの補完代替医療は抗がん剤や放射線治療など、健康保険内で行われる標準治療と併用したり、標準治療の代わりに行われたりする。
しかしサプリメントなどは想定外の副作用が起きる場合もあり、医療の世界では相談せずに使用しないよう警告されている。
それでも補完代替医療を利用する人は多い。それは一見、このような民間療法は治しを提供しているように見えて、実際は癒やしを提供しているからと考えている。
闘病記から見る治しと癒やし
ここでひとつ例を挙げたい。これは大腸がんをわずらった漫画家の闘病記である。
この中で大腸がんの転移が見つかりステージⅣという最も重い診断をくだされるシーンがある。
そして治療前の正確ながんのサイズを計るためにMRIが必要になるが、その予約は十日後になると医師から告げられる。
不安になった作者が「そんな先になるんですか?」と聞くと、医師は日程を早められないか検査室に連絡する。しかしあっさりとダメでしたと告げられる。
そのときの心境を描いたのが次のシーンとなる。
そしてそのあとに補完代替医療として高濃度ビタミンC療法を行っているクリニックへ足を運ぶ。
実は作者もこの治療を信じているわけではない。さらに自分の話ばかりをするクリニックの医師を軽薄だと思い信用もしていない。
しかしステージⅣという診断がされ、わらにもすがる思いでこのクリニックにも足を運んだのである。
病院では治療前の検査をしている中、クリニックでは先に治療と称して高濃度ビタミンCの点滴が行われる。そのときの心境を描いたのが次のシーンになる。
効果がないと思っている。それなのに気休めを与えてくれたのはクリニックだった。このクリニックは一見、高濃度ビタミンCという治しを提供しているように見えるが、実際は医療の世界で提供できなかった癒やしを与えたと思われる。
作者が述べたように病院では分業して、それぞれの専門領域で業務を行う。この作者の場合は抗がん剤と手術など複数の治療が検討されているため担当の医師も複数人いる。
そのため一貫して自分を見てくれる人がいないと感じている。それは治しが複雑化し、分業が必要にならざるを得なくなっているからこそ起きてしまう問題である。
そんな中ですべての状況を聞いてくれたクリニックの医師に対して、作者は癒やしを感じたのではないだろうか。患者の状況を聞いて、その上で補完代替医療として高濃度ビタミンCを点滴する。その一貫性を持つ存在に安心したのではないだろうか。
だからこそ治療自体を信じていないにもかかわらず、気休めを与えてくれたと感じた。これはある種の癒やしの効果だと考えられる。
その後は病院でも抗がん剤などの標準治療が始まっていく。しかしどうしても病院で流れ作業的に行われていく治しに対して作者はストレスを抱えていく。
治療中に便が出ず予約外に受診した場合も、不安な気持ちを受け止めてもらえないと感じる。むしろ医療者から迷惑がられていると感じ、つらい気持ちが大きくなっている。
作者はそのときに対応した医療者を情というカテゴリーで分類している。
このときに描かれていたシーンも治しとしての対応は間違っていない。しかし癒やしという部分は、忙しい医療現場で対応しきれなかったことになる。
抗がん剤の治療が続く中で作者は補完代替医療のクリニックにも通う。そのクリニックで高濃度ビタミンC療法を受けている高齢女性に対して考えを述べるシーンがある。
その女性は抗がん剤がもう使えない中で、副作用がないという理由で高濃度ビタミンCの治療を受ける。そして治療を受けられたことに女性は感謝する。そのあとに作者の考えを述べたのが次のシーンとなる。
ここのシーンを見てもこのクリニックが癒やしは提供しているのではないかと思う。
だからこそ作者も怪しいクリニックが救ってくれるわけではない(治しは提供できない)。でもそんな正義感でお婆さんを救えない(癒やしは提供している)と述べているのだろう。
もしかしたら健康な人の視点から見たら、このような補完代替医療を受ける人は無駄なことをしている、素直に標準治療だけを受けるのが一番だと思うかもしれない。
しかし補完代替医療を受ける人には不安やつらい気持ちがある。標準治療だけで大丈夫なのだろうか、他に手はないのだろうか、病院で自分のことを本当に見てくれているのだろうかと考える。
そういう気持ちの受け皿を補完代替医療が担ってしまっている、というのが実情なのではないだろうか。
補完代替医療は保険が利かず全額自己負担になるという現実もある。そして予期せぬ副作用によって体調を崩すリスクもある。ここに癒やしを提供するのが難しい医療の限界があると考えている。
さらにこの癒やしの提供は医療の世界だけではない。前の記事で書いたように癒やしだけが必要なグループというのも存在する。ここにも同じような理論があると考えている。
そのひとつの例としてホストの売掛問題を挙げたい。
ホストの売掛問題を通して考える癒やしとは
ホストの売掛問題とは、ホストにはまった女性が多額の借金を抱え、場合によっては売春を斡旋されて借金を返さざるを得なくなったという問題である。
売掛とは後払い制度、いわゆるツケのことだ。ホストに行った日、女性はその場で支払いはせず売掛として月末にまとめて支払う。そして売掛となった代金は一旦、担当のホストが肩代わりする。
しかし推しのホストのランキングを上げるために高額なシャンパンなどを注文して、その売掛の額が自分では支払えないほどの巨額になってしまう人が続出した。
そしてホストは売掛金が回収できないと自分の負担となってしまうため、女性に売春させてでも回収しようとして社会問題になった。
売掛自体は両者で合意が取れていれば問題ではない。ある意味、クレジットカードの支払いも売掛と同じである。
クレジットカードは利用者の信用度に応じて使える額の上限が決められ、信用度が低ければカードが発行されないこともある。
売掛の場合はホスト側が信用度を見極める。しかし売春させれば売掛金を回収できるという要素も信用度に含まれてしまうことが問題になる。
だからこそ若い女性をターゲットにして、収入を大きく超えた売掛金を負わされるというケースが多くなり社会問題になった。
そうはいっても売掛も、そもそもホストで遊んだのも自分の判断だから自己責任なのでは?と思う人がいるかもしれない。しかしここにも先ほどと同じ構造の癒やしの問題があると考えている。
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例えば上記の記事では、家庭や周囲に居場所のない女性が路上でホストに声をかけられたところから、ホストにはまった経緯が明かされている。以下はその女性がホストにはまった理由を述べている部分だ。
女性は、「ある意味洗脳されていた。ホストはかっこよくて、それまで会った大人と違い私のことを否定しなかった。『おまえは悪くない』と言われ、ホストクラブが居場所になってしまっていた」と振り返ります。
この言葉には癒やしをホストが提供してくれたと感じさせられる。つまりホストが心のつらい部分に寄り添ってくれたからこそ、女性はホストにのめり込み多額の売掛金を負ってしまったと考えられる。
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こちらの記事では夜職、いわゆるキャバクラや風俗に勤めている女性は、ホストにはまっている確率が他の女性より高いというデータが示されている。
その原因のひとつとして親からの愛情不足を挙げている。親からの愛情が不足していたと感じた人は、感じていない人に比べてホストにはまる比率が高い。
これも親からの愛情不足をホストが埋めて、癒やしを与えてくれるからこそ、はまってしまうと考えられる。
そしてホストはこの癒やしを戦略的に使っていると思われる。最初に挙げた記事の中でホストの戦略を書いた部分がある。
さらに、「マインドコントロールテクニック」として、「鎖をかける」とか「地雷をおく」などのキーワードが記されていて、玄代表は、「『鎖をかける』とは、ホストクラブから客が抜け出せなくすることで、客の良いところを褒めたり、『一目惚れした』とか『理解者だ』、『好きだ』など、ふだんは聞かないような言葉で客を持ち上げることで心が傾くようにしている」と指摘しています。
このように癒やしを求める女性と、それを与えてくれるホストという関係に歯止めがかからなかったとき、売掛問題へと発展していくと考えられる。
癒やしを求めたときのコントロールの難しさ
補完代替医療にしろ、売掛問題にしろ、これらはすべて癒やしを求めている人が直面する事態だと思う。
標準治療の影響が出ない範囲、自分の経済的に無理のない範囲であれば、補完代替医療もホストクラブも適度な癒やしが与えられると思う。
しかし、そのような適切なコントロールは難しい。癒やしを求める状況は余裕が少なく、目に入ったものに手を伸ばしてしまう可能性が高い。
つかんだ補完代替医療が体に悪影響をもたらす高額なものだったら。つかんだ手が売春させて売上を得ようと思っている悪徳ホストだったとしたら。
おそらくそれを振り切ることは難しいのではないだろうか。だからこそ、もっと癒やしに注力できる人が必要だと考えている。
医療の世界が複雑になればなるほど、治しと癒やしを必要とする人が医療の世界で癒やしを受け取ることが難しくなる。そして治しを必要としない癒やしだけが必要な人にも医療者の手は届きづらい。
そのため自分は癒やしに注力する人や、自分自身で癒やせる人が増えてほしいと思っている。
そこで次は自分が考える癒やしに必要なもののひとつとして、自分の物語を綴ることが大事だという話をしたい。
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