小説– archive –
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第二十六話 呼びかけ
「仲間さん!」 彼女らの姿が目に入ったとき安堵する自分がいた。呪いがかかっていない三人は、私となんの縁も結んでいない。その事実が自分を打ちのめしていたにもかかわらず助けが来たと思わずにはいられなかった。 「入るな!」 そのとき清司の鋭い... -
第二十五話 真実
「そんな……」 忌子は清司から聞かされた歴史を聞いて驚愕していた。神楽を龍神に捧げる。舞いによって楽しませる。巫女としての役割を自分なりに理解して、これまでも神楽に臨んでいた。でも実際の歴史はもっと複雑だった。龍神に捧げられる生贄の身代わ... -
第二十四話 本心
「でもただ寝てるだけなんじゃ」 「どうだろう。彼女はこんな状況の後、すぐにぐっすりと眠れるとは思えないよ」 楠本も考え込みながら心配そうな顔をしている。 「行こう!」 仲間が立ち上がる。 「行こうってどこに? 家にいないんだし」 「だった... -
第二十三話 神話
「まあ、あまり気を落とさない方がいい」 運転席から声をかける仲間の声を秀俊は後部座席でうつむきながら聞いていた。仲間は自分の母親が入院することを気づかっているのだろう。しかし秀俊の頭の中では忌子のショックを受けた顔が浮かんでいる。 呪... -
第二十二話 儀式
「さあ入りなさい」 涙を拭った清司が忌子に内陣に入るように促す。内陣は基本的に宮司しか入れないため、ここには初めて足を踏み入れる。外陣までしか入ったことがない忌子にとって本殿は気持ちを落ち着けることのできる場所だった。しかし内陣から発せ... -
第二十一話 八乙女家の歴史
風呂場で体を清めた後、巫女装束に着替えて龍奉神社へと向かう。外は晴れ間は覗いているが雲の多い空だった。西には巨大な入道雲が見えていて、夏もどんどん本格的になってきている様相だった。 神社へとたどり着くと鳥居の前で百人一首に出てくるよう... -
第二十話 儀式の始まり
仲間が運転する車で離れに戻った忌子たちは居間で楠本からの連絡を待っていた。仲間は椅子に腰掛け黙ったまま目を閉じている。最初は考え事をしていると思っていたが、どうやら呼吸の感じから寝息を立てているようだった。 この状況でも寝られる仲間の... -
第十九話 けいれん
「母さん!」 真っ先に秀俊が駆け寄り、その後すぐに楠本も駆け寄る。楠本が仰向けに寝かせた愛美の姿を見て忌子は恐怖する。愛美は目を閉じて全身を震わせていた。手足が無秩序に動きのたうち回るようだった。 「田島くん。バスタオルを何枚か持ってき... -
第十八話 呪いの真相
「どこにやったの?」 その声は低いドスの効いた声で、日中の少し高い優しそうな声とはまったくの別物だった。目の前にいるのはたしかに秀俊の母親だ。それなのに、あらゆる光景が別人なのではないかと思わせる。 「あなたが持ち出したんでしょ!」 突... -
第十七話 田島家
楠本のレンタカーに乗り込んで四人は秀俊の家へと向かう。夜中になると日中よりは暑さは和らいでいる。しかし日増しに蒸し暑さは強くなっていて夏が本格的に近づいているのを感じた。車内で移動中は忌子も含めてみなずっと無言だった。 家から少し離れ...