あとがき 忌子とHunter✕Hunterの関係

 この小説のアイディアのきっかけになったのはHunter✕Hunterのあるシーンだった。

 次はどんな小説を書こうかと考えているとき、今回は自分が感動したものから広げていこうという選択をした。

 そのときにぱっと浮かんだのがHunter✕Hunterのキメラアント編のシーンだった。それは本筋ではなく後日談のような部分だった。重大なネタバレというわけではないが、一応ある話のネタバレにはなるので注意していただければと思う。

 Hunter✕Hunterという漫画は簡単に言うと、念能力という特殊能力が使える登場人物たちによるバトル漫画だ。しかし世界観や設定の広さ、深さなどから人気を博している。

 その中でキメラアント編という話がある。それは登場人物たちの世界に外来生物として2m以上の大きさがある巨大な人食いアリ、キメラアントが流れ着くことから始まる。

 流れ着いたキメラアントは女王蟻であり、他の生物を捕食して栄養を取りながら働き蟻として子どもを産んでいく。産まれた働き蟻は捕食した生物の特性を持っている。

 例えばサワガニを食べて産まれた働き蟻は蟻の姿ではなく、全身に甲羅をまといハサミを持った姿で産まれてくる。そのような生物がある日、人間を見つけ捕食する。

 人間は高栄養価であると気がつき女王蟻は人間に狙いを定めるようになる。また産まれた働き蟻も人語を解し、武器も扱えるようになり脅威が広がっていくことから、人間たちはそのキメラアントを滅ぼそうと奮闘する。

ここから先はネタバレあり

 そこから先のストーリーは省くが、このキメラアント編が終わるときにある問題が生まれる。それは働き蟻の中には生き残った者たちもいて、個体によっては元の人間の記憶が残っているものもいるということだ。

 ある個体は見た目は虫の姿ではあるが人間の頃の記憶もあり故郷へ戻ることとなる。その個体は作中では全然しゃべることがなかった。その理由は元々は幼い少女だったからだ。

 虫の姿になっても周囲で話される会話を理解できず喋らなかったという設定だ。その個体が別の個体とともに村に帰ったときのシーンに感動した。

 故郷の村では行方不明になった娘に対して、祭壇を目の前に落ち込んでいる母親が描かれる。そこに虫の姿になった娘が顔を出すと、母親はすぐにその個体が自分の娘だったことに気がつく。

Hunter✕Hunter30巻より

 この感動したシーンを元に考えていったとき、忌子の作品における呪いのアイディアが思い浮かんだ。

 虫の姿になってしまうのは呪いのようなものだ。そして虫の姿に変わってしまった娘でも母親がすぐに気がつけたのは、縁の深さが描写されていると感じた。

 このような呪いが主人公の身に起きたとき、そこに手を差し伸べられるかどうかという設定は面白くなるのではないかと感じた。

 設定を深めていくうちに、主人公と縁が深ければ深い人ほど嫌われる呪いというアイディアが浮かんだ。そのような設定であれば親友のような主人公と縁が深い人ほど態度がきつくなる。

 また近しい人なのに、まったく態度が変わらず実は縁が結べていないということがつきつけられる。この設定にはかなりの絶望が生まれると思ったし、そこを乗り越えていくというのは物語的にも面白くなると感じた。

 この呪いというアイディアが産まれてから舞台設定やキャラ作りが始まった。どのような舞台だったら、この呪いがうまく表現できるのか。

 最初に思いついたのはカルト教団のような怪しい団体が集まる村を考えた。そして呪いをかける対象は赤子だった。カルト教団と知らず村に移住した夫婦、そのおなかにいる赤ん坊に呪いがかけられるという設定だ。

 そのときの呪いの設定は、産まれてきた赤子を見た瞬間に呪いが発動するというものだった。そして家族が呪いに立ち向かうために奮闘するというストーリーだ。

 例えば産まれてくる赤子の姿を見て呪いが発動しないように、眼をつぶしてしまう母親もキャラクターとして考えていた。これはHunter✕Hunterの影響が強かったとも言える。

 しかしあくまで主人公は呪いがかかってしまった本人の必要がある。そこから成人した世界でのストーリーも考えたが、スパンが長すぎる点や呪いの設定もどんどん複雑になっていってしまったため断念した。

 原点に立ち返り、ストーリーの軸はあくまで呪いを解くこと。そのためのストーリーを考えることにした。そうなると呪いを解く方法を考えないといけない。

 そのときに浮かんだのが踊りによる解呪の方法だった。最初に浮かんだのは雪山の中での踊るとシーンだ。これは映像的にもきれいだなと思い、その中でプロットを考え始めた。

 そのうちに神楽というアイディアが浮かび、呪いとの親和性があると考え舞台設定は神社に決まった。

 そこからキャラクターを練り始めて忌子という主人公が産まれた。タイトルにもなっている忌子という言葉は、巫女や神社について調べている際にたまたま見つけたものだった。

 忌子は神に奉仕する童女という、字面と意味が正反対の言葉だった。この言葉を見つけたときに、これは呪いとしてもつながると考えた。呪いが明らかにする表面的な態度と本心の違いは、忌子という字面と意味の違いにリンクすると考えた。

 こうして忌子という主人公が産まれた。

 忌子という作品は自分としては愛着の持てるものにできた。読んだ人たちにも楽しんでもらえたら嬉しい限りだ。

 このような誕生秘話や創作過程に需要があるかはわからない。ただ個人的には面白い作品を見たときに、なんでこんなことが思いついたのだろうと興味が湧くこともあったので残しておきたいと思う。

 

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